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どんど晴れ反省会


1月の盛岡商業サッカー部全国制覇を経て、今度は盛岡がNHK朝ドラの初の舞台に! 我ら県民市民は大いに期待した──これで更に郷土岩手盛岡が広く知られるきっかけになるだろう、と。

だが『どんど晴れ』──そこには「適当にかいつまんで作った岩手」「間違った岩手」が、多々あったことは否めない。

我々はこの半年に渡るドラマ観戦を通して、NHKがロケ地をどれくらい勉強しているのか、どれほど事前のリサーチが「形ばかり」なのか、どれくらい彼らが地方民のマインドを理解(誤解)しているのか、良〜く分かった。ドラマにとって「都合良い部分」だけ抽出された郷土の姿に嘆き、その上での「民話、自然、古い建物」への知った風な「口先の褒め言葉」に呆れ、ぶっちゃけ「横浜の人間の優れた感性に、ボンクラ地方民が目を開かされるストーリー」に憤慨し──。

「伝統」「おもてなしの心」と持ち上げても、横浜の助けを得ないと早々潰れていたに違いない盛岡の老舗旅館。「家族の輪」と持ち上げてみても、「横浜仕込み」の柾樹以外は経営能力など皆無な一家──言うなれば岩手は、横浜から来た夏美の、横浜で学んだ柾樹の「咬ませ犬」ではなかったか。

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「オレは咬ませ犬じゃねえ!」


そんなフラストレーションを各週共ここに書き記して来たが、最後にランキングにしてみた。
では──、


1:こんなの、じゃじゃ麺じゃない!
4月18日放送会──喫茶「イーハトーブ」にて「じゃじゃ麺」として出されたのが、豚バラ肉の乗った偽じゃじゃ麺。広く愛される県民食への冒涜に、県民視聴者の怒りが爆発。その後、NHKが火消しに奔走するも、製作サイドへの信頼は一気に失せる。数ある『どんど晴れ』への不満の中でも、やはりこれが一番腹が立ったという県民市民は少なくない。ソウルフードへの冒涜は、盛岡人の魂そのものへの冒涜である。


2:舞台設定がおかしい!
舞台であるその土地独自の商売にスポットを当てるのが、これまでのNHK朝ドラの手法だったはず。しかし、盛岡に「伝統ある老舗の名門旅館」など無い。「来る者、帰るが如し」なんて言葉も、聞いた事も無い。制作発表のハナから芽生えた猜疑心……舞台を盛岡市としながらも、これではNHKが「他所のネタで、やっつけで作った」という感ありありだ。

故に盛岡市民、ストーリーの根幹である「夏美の女将修行」には全くもって心乗らず、まるで「盛岡」という名の異世界を舞台としたドラマを見ているようであった。恐らく郷土の先人が、空港の無いこの「緑の町」にユーミンが「舞い降りて」来ちゃった時に感じた違和感を追体験している感じ。個人的には高校サッカー部監督や、女性南部鉄器職人といった、実在する人物をドラマ化して欲しかった。


3:地元民蔑視!
横浜帰りの加賀美柾樹ばかりが「優れたビジネス手腕」の持ち主に描かれる一方、それと対比する様に、加賀美伸一をはじめとした地元在住者や、その周辺の実在組合、業者の商売慣習は否定的(=改革派・柾樹への抵抗勢力)に描かれた。後付け的にそれらへのフォローの言葉(「伸一さんも、加賀美屋を思っての行動なんです」「板場に女が入ってはいけない、そういう伝統の積み重ねが加賀美屋を守って来たんです」など)は有れど、むしろそれは柾樹、夏美らの「心の広さを表すエピソード」でしか無かった。

岩手の良い点として描かれるのは「民話、自然、古い建物」ばかりで、人間は横浜モンには到底敵わぬ、古臭い因習に縛られた「ボンクラ」ばかり。ホステスに騙されるわ、株券をだまし取られるわ、裏心ある幼なじみに丸め込まれるわ……。唯一好意的に描かれる大女将像も、「盛岡の名門老舗旅館の大女将」という実在せぬ人物像ゆえ、地元民としては嬉しくも何ともない。随所でのイメージダウンの連続に、ドラマのヒットを祈願し応援していた市民はかなり複雑だった。


4:“民話の故郷”描写への疑問
「“民話の故郷"岩手県を舞台に新たな“平成の民話”を目指します(NHK製作発表時)」──と言いつつも、実際に岩手県民が傍らに抱く民話への思いとの乖離を感じた。物語の核を為した『座敷わらし』も、実はあまり盛岡的ではない。他にも、ガイドマップから拾って来たような薄っぺらな民話の、実際よりも「物語の都合」を優先した様な織り込み方にはシラケた。果ては、重要なポイントにて用いられたのが「玉手箱」や「来る者に安らぎを 去り行く者に幸せを」というドイツの話。肝心な所で、「岩手の民話では役不足」とばかりに他所の民話を用いるのでは、「民話の故郷」は口ばかりという感が否めない。

せめて終盤の「約束手形」を三ツ石神社の、岩手の名の由来ともなった「鬼の手形」民話に重ねれば──県民としても正に「どんど晴れと」して腑に落ちたろうが、彼らにはそういう発想も無かったか。


5:主要キャストに、岩手県勢からの選出がまったく無し
県民で構成された盛岡商業サッカー部の全国制覇、その余韻冷めやらぬ内に、幾ら舞台が盛岡とはいえ「県民不在のドラマ」に心踊るはずもなく……。俳優たちの奮闘は大いに評価、感謝するが、やはり排他的田舎者の性としては「余所者たちが岩手県民に成り済まして演じている」という不自然さは否めなかった。「おかしな方言」も、また「じゃじゃ麺」などの詳細設定の不具合も、この県民不在が主因かも知れない。

確かに「東北地方出身者」は多かった。だが、それもまたNHKの「東北人だから一緒だろ」的な、地方文化への侮蔑的な捉え方を表しているようで、寂しさを禁じ得なかった。


6:柾樹の言ってる事に無理がある
ネットを介した魚の少量購入、それでコストが下がるのは不自然では? それまで、どれだけ不要な魚を買わされていたのだろうか。そもそも「現代社会が忘れかけていた“日本の美徳”をお届いたします(NHK)」──と言いながら、長年の商慣習を「コスト」だけで否定する柾樹の板場改革……その何処が「日本の美徳」なのだろう。結局、最後まで鮮魚卸し業者は「旧い抵抗勢力」のままで、そこに在るプラス要因が省みられる事は無かった。伸一が大切にして来た「地域業界との繋がり」、それが直接的に報われる事も無かった。

また、「母屋とは別に離れを造る」「ホームページの充実」──そんな、他県の老舗旅館で以前に成功したやり方を「そのまま持って来ただけの改革案」でしかないのに、まるで「それこそが正しい」かの様に語っている柾樹には胡散臭ささえ感じた。(加えて、「その程度」でしかない柾樹に、誰も対抗できない旅館の岩手県民が情けなかった。)

実際問題、「加賀美屋ならではの……」と言いながら他所の二番煎じ──それで老舗間の競争に勝てるだろうか。程度は違えど、秋山らの「リゾート開発」と同じ様な、「聞き齧ったウマい話」で人を釣っているだけではないか。しかし、柾樹の改革に関して、そういう点は省みられることは無かった。顧客管理ミス(前田さん違い)の元凶である「手書き台帳から、PC管理への性急な移行」を行った柾樹を、まるで誰も責めないのも不自然だった。ウマいことを言いながら、何の事は無い「旧いものが駆逐され、新しいものは疑問視されること無く肯定される」──総じて、それこそが『どんど晴れ』の世界に感じた。


7:御都合主義!
上記にも通じるが、『どんど晴れ』流の「伝統を活かす」「伝統を都合良く利用する」にしか聞こえなかった。「民話、自然、古い建物」の三点セットは大事にする一方、古くからの付き合い、慣習といったソフト面は否定し、しかもその際には体よく「変えていく事、新しい伝統を積み重ねる事も大切だ」などと──そんな御都合主義には呆れた。ドラマ進行の都合によって、便宜的に「善と悪」へと振り分けられる「伝統」。形ばかりでも旅館は伸一が継ぐのが、どう考えても筋ではないのか。

それはNHKの姿勢にも通じていた。取って付けた様なテーマ(=現代社会が忘れかけていた「日本の美徳」を……)を貫く為に、単に盛岡の旧いイメージを「伝統」などと銘打って利用し、この盛岡に有るのか疑わしい美徳を創出(※1)し、しかし現実に我々盛岡人が日々感じている伝統の心=「盛岡人の伝統的な美徳」の部分は、好意的に描かいていない(※2)。

ともあれ真の美徳が省みられず、NHKの都合で作られたありもしない美徳も、詭弁を労して結果骨抜きに……ある意味その様は滑稽でもあった。

※1:「おもてなしの心」など、老舗旅館など無い盛岡人には馴染みが無く、全く響かない言葉。ああいった微に入り細に入った接客は、とてもじゃないが「盛岡的」ではなく、現実に古くからある「盛岡的なおもてなし」ってのは、もっと過剰(例:わんこそば)か、または逆に良い意味でブッキラボウだ。

※2:加賀美家の「家族の和」にしても、夏美によって取り繕われたもの。むしろそれ以前は「家族経営の甘さ」を生む負の要因でしかなく、トラブルの種ではあっても、美徳としては伝わらなかった。実際の所、それはそれでリアルでは有るが、ならば美徳などと持ち上げないで欲しかった。


8:リアリティの欠如!
一本桜の周囲は『立ち入り禁止』──それは兎も角、石割桜の完全無視は謎だった。また、早池峰薄雪草ではなく白山千鳥、高校サッカー優勝はスルー、挙げ句はじゃじゃ麺ばかりで蕎麦はアレルギーの話、……そんな、現実の岩手県民のマインドからすると、どうにも解せないピックアップには疑問が募った。挙げ句は、市民失笑の盛岡リゾート開発計画──そもそも舞台が有りもしない老舗旅館であることから追って知るべしだが、盛岡という街をあまりにも知らなさ過ぎる感じがした。


9:不景気な話が多すぎ!
病気の話(翼少年、清美の母、大女将、夏美の父、聡の祖母)、そして借金の話(加賀美屋、彩華の実家、前田夫妻)──物語の進行に、あそこまで不景気な話は必要なのだろうか。かなり気が滅入った。特に彩華の実家は「以前、市役所の向こうにあった料亭」という設定だが、それは即ち今は無きあの料亭……少なくとも盛岡市民はそう思う。でも、それでいて「借金で倒産」と描かれては溜らない。

10:話に広がりが無い
殊に大女将死後は『ハゲタカ』のスピンオフのような展開に。「女将修行ストーリー」の行き詰まりを他所の話題ドラマネタで賄おうという感ありありで、キャバ嬢のハニートラップなど、製作サイドが「朝のドラマ」であることを意識していたのかも疑問だった。若女将就任後は何もまた「旅館建替え騒動」を繰り返すこと無く、ほのぼのとした、幸せな雰囲気で良かったのではないか。最後の方は疲れるばかりだった。聡の「実は御曹司でした」「黒幕の子供でした」ってオチも……なんだそりゃ。メーテルか。

他にも、年金記録紛失をなぞった様な顧客管理ミス事件、韓流スターを使った韓流ドラマ風展開……それが悪いとは言わないが、もう少し岩手に即した話を盛り込んだ上でならば、納得も行っただろう。盛岡の廃業料亭(実在?)の怨念を背負った彩華との対決や、あまりにもあっさりだった遠野での父子和解など、もっと引っ張れる話があったろうに。個人的には伸一とマスターの過去の確執を掘り下げて欲しかった。こういうのは身につまされるから。
ともあれ、「作り手が岩手を向いて作っていない」ことを強く感じた。


圏外
仲居たちが「おもてなしの心」の担い手に見えない/仲居のシフトが謎/旅館内で大声出し過ぎ/音楽や効果音が五月蝿い/毎回終わりに晴れてもいないのに「どんど晴れ!」って/八兵衛がうっかりしない/八兵衛が名物を食べない/柾樹がモテすぎる/鈴木蘭々とダニエル・カールが途中からいらない/一本桜が合成映像臭い……等々。



[2007-10-18 18:57]


by tototitta02 | 2007-10-02 18:57 | 朝ドラ『どんど晴れ』観戦記 | HOME | TOP▲


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