いものみち 第参話

"緑茶責め"

注:本作は成人向けとなっております。ご注意、ご勘弁下さい。



キシリアさまのところへ届けてくれ……
あれは……イイモノだっ……
機動戦士ガンダム第37話「テキサスの攻防」より


00
鋳物は育てられて、初めて「イイモノ」に生まれ変わる。その再び戻れぬ「いものみち」の上を、行く先の分からぬ五徳に乗って走り始めた鉄瓶「鉄瓶子」と、その再生を目論む男。そして物好きな読者たち……君たちも既にその伴走者だ。

「物を使うのは堪忍しておくれやす!!!」
(著者註/京由来の南部鉄器故、希に予期せぬ感奮の折りは「京ことば」も口に出るらしい)

好奇と猟奇が相四つする屋敷の台所──障子の間での容赦なき「歯ブラシ責め」を終え、漸く置かれた西洋火鉢(=ガスコンロ)より木霊するは、そこにて本来の「沸かしの道具」に還る悦びに震えていたはずの鋳物の叫声(さけび)。鉄の決意で耐えていた鉄瓶に、またも赦し求める声を上げさせた「物」とは一体!?……早速筆者もそこへ向かおう。前回に続き、男と鉄器の倒錯世界、読者の為にもとことん描写せねばなるまい。それが勤めだ。




01
f0149320_16254675.jpg鉄瓶子の体内に、水と共に挿入された何物か──それは「お茶の葉」だった。思いがけぬ異物の挿入、抗おうにも、だが鉄瓶子はやがてその身に甦る熱いものに、煮えたぎる湯気を抑えられなかった。その浅ましさを悟られまいとしても、身体は正直。暴く様な男の視姦の下、逃れられぬ熱伝導に、いつしか恥じらいも忘れて「チンチン」と……いわゆる上質な砂鉄製ならではの、艶かしい声色を上げてしまう鉄瓶子。

「だめぇ、お茶が沸いちゃう。シューーー!」

【緑茶責めレシピ】………………………………………………………………………
・出汁取り用パックに「緑茶(中古鉄瓶には使い古した茶殻で十分也)」を大匙2杯ほど
・水は6分目
・火は弱火(吹き零れの怖れあり。火元、決して離れるべからず)
・沸騰して湯が真黒に染まったら10分後に火を止め、そのまま8時間放置せよ
………………………………………………………………………………………………


ほ、放置プレイ?──男のレシピエントの最後の一文に、思わず総毛立つ鉄瓶子。毛など有るまじ鋳物の身とはいえ、無理も無かろう。購入した鉄瓶に必添の「使用上の注意書き」を、男が知らぬわけも無い。

【注意】
水の入れっぱなしは、「錆び」の原因となります。使用後は中身をポットなどに空け、蓋を取った上で五徳に戻し、そのまま暫く「余熱」にて乾燥させてください。

しかし、男は構わず、水を入れたままで鉄瓶を放置するという──
「嫌ッ、放っておかないで! 何でも命令して下さいッ……どんなに恥ずかしい事でも致します……四這いで豚になれと言うならなります、ブーブーブー! だから放置だけはッ!」

「それに耐えられぬのなら、そこまでだな。お前も……俺も………」

「ブーブーブー!」




02
「お前も……俺も………」何処か寂し気にそう告げた後、「朝まで戻らん」と言い残して男は屋敷を後にした。鉄瓶子にようやく訪れた一つめの夜、それは辛苦と孤独の夜。戸外の通りからはフライデーナイトを楽しむ恋人たちの声が。旦那様も今頃誰かと──水濡れに、再び錆纏(さびまと)う怖れにも増して、一人置き去られた鉄瓶の心覆うは哀しき女心……。

寂しい鉄瓶は、夜一人泣く──
秀でた蓄熱の業に、火照りの鎮まりを赦されぬまま、濡れたままの身体を置き去りにされた鉄瓶子もまた然り。哀れ、自らを慰む術知らぬ鋳物は「せめて連絡だけでも有るやも」と一縷に抱いては、しかし夜鷹の時を告ぐる鳴声に、やがてそんな思いも叶わぬと知り、夜通し煮詰められた緑茶の臭いを放ち乍ら、一人ただ泣き続けた。そして迎えた朝、屋敷の外から聴こえて来る声は幸せな土曜日、しかしここだけは、もう一つの土曜日──

♪昨夜(ゆうべ)、眠れずに泣いていたんだろう?……

何所からか歌が聴こえてきた。

……彼からの電話 待ち続けて
台所の向こうで君は笑うけど 鉄瓶ふちどる悲しみの影
もう彼のことは忘れてしまえよ まだ君は若く その頬の水気
乾かせる誰かが この街の何所かで 君のことを待ち続けてる


f0149320_1626415.jpgやめて、浜省──鉄瓶子は叫んだ。旦那様は賭けている、私に。こんな薄汚れた私に、何を求めているのか判らないけれど……そう告げられた浜省は黒眼鏡越しの瞳で頷き、出ていった。

するとそこへ、漸く帰還したらしき屋敷の主の立てる物音。おかえりなさいまし……だが、朝帰りの男はそんな留守居の泣き濡れた瞳も顧みず、楚々草(そそくさ)と鋳物内部を満たした黒水を捨て流し、真水で一度濯ぐと言った──

「うむ。黒い、黒いぞ」

覗き込まれた内部をそう言われ、恥じらわぬ者は居ない。

「赤錆ていた部分が、黒く変色しているだろう?」

「……は、はい




03
f0149320_16262546.jpg非道いと思いません? 女の一部分を「黒い」だなんて……旦那様が変なモノを入れなさるからよ! でも本当に黒ずんでる……私もうお嫁に行けないッ──そんな鋳物の乙女心を他所に、なおも無遠慮に「黒い、黒い」を連発する男。だが、鉄瓶子は気付いていなかった。それは、緑茶の成分タンニンと鋳物の鉄分が結合して生じた『タンニン鉄』。その「黒い皮膜」こそが、失われた『酸化皮膜』の代わりに内部を覆い、沸し湯に『金気臭さ』が溶出するのを防ぐのだ。

「それじゃあ、私を一人前の南部鉄瓶に甦らせる為に?……」

「如何にも。『緑茶責め』とは即ち、歯ブラシでは取りきれなかった赤錆を煮出した上で、改めてこの『タンニン鉄』の皮膜を煮付ける作業也。」

なんというその深慮、総ては己の「膜再生」の為だった──夜通しの放置、それをその底無しの「加虐趣味(サディズム)」に拠る所行と半ば疑っていた鋳物は喜び、そして恥じた。なお、この『金気止め』の再処置を完了して、初めて鉄瓶は水放置厳禁となる。

だが、それには未だ早い──
未だ「金気止め」の効果甘いと見た男が下した、二度目の「緑茶責め」の令……しかしなるほど「放置」は女を従順に変えるらしく、鉄瓶子は素直にそれに従った。

「もっと黒くしてやる」
「はい、もっと黒くして下さい」

五徳の上、その意図に安堵を覚えた鋳物は、存分に熱を貪り、浅ましく湯気を立てた。更にその肌に付加される、先程使った「緑茶パック」を当て捺す作業──それは即ち『鉄器表面のタンニン鉄化作業』。ジュージューと音を上げて身悶える鉄瓶子、だが鋳物のあらゆる「箇所」を開発し尽くそうという欲望に妥協は無い。ただただ冷徹に、その鉄肌に「俺色」の烙印を捺していく男……。(著者註/外側にも激しく赤錆が浮き出た状態なら、大鍋に倍の緑茶を煮出して、鉄瓶自体を漬けておくのも手である)

「これでお前の痘痕(あばた)の様な肌も、幾らか見れる様になるだろう」

相変わらずの蔑(さげす)む様な『言葉責め』さえ、鉄瓶子には喜びだった。何があってももういいの──くらくら燃える火に乗って、あなたと止めたい……金気止め。身を焼かれる様な苦しみの中、しかし決意を歌に込め乍ら、鉄瓶子は二度目の『お茶責め』をやり遂げた。「次で仕上げだ」と、その様を視認した男が告げる。安堵の様な、だがそれでいて何処か覚える物足りなさ……しかしその時鉄瓶子が見たのは、男の手に握られた一本の逞しき薩摩芋だった。「この意味が、分かるか?」と問うた男に、目を潤ませながら鉄瓶子は答える──

太い……太いです……




04
f0149320_16264752.jpgやっぱり皮、剥くんですね……鉄瓶子の視線は剥身を現した芋から離れない。そんな鋳物に男は吐き捨てる──使うのはこっちの“皮”の方だ、エロ鉄瓶が。そう、男の次なる一手は、緑茶の代用に芋皮を用いた『芋責め』であった。黙々とまな板の前で包丁を振るう男、時折その頭を上げては──

「時間を空けてこれら煮付け作業をされる場合は、必ず前述の行程で一旦乾かしてから行って下さい。また、脆くなった中古鉄瓶を初めて火にかける際は、『割れる』などの不測の事態も予想されるので、皆さんはくれぐれも気を付けて作業して下さいね!」

料理人グッチさんよろしく座った目のまま、誰に言っているやもしれぬそれら注意事項。その姿を見遣り乍ら、しかし鉄瓶子はそんな男の流麗な刃物捌きに、まるで自分の肉体までもが赤裸(せきら)に剥かれている錯覚を覚えた。手慣れているのね、旦那様……。すると、その凝視の先に映る、男の爪黒(つまぐろ)い指先──

「あれは『土』! 旦那様はこの芋を掘りに……」

昨夜の男の外出は、女性との逢瀬ではなかった。なぜなら、金曜深夜に芋掘りする男に付き合う女など居ないからだ。そんな幸せな鋳物を包む、緑茶に勝る「芋皮煮」の臭い。タンニンはもう堪忍……されど耐えうる自信が鉄瓶にはあった。内部に確かに甦る皮膜の感触、膜再生、もう一度ヴァージンに戻る私……愛染恭子、様々な思いが鋳物に勇気を与えた。ありがとうお芋さん、あなたは膜を奪うのでは無く、私に膜を与えてくれるのね………。

最後の放置の夜──
安堵した表情で眠る鋳物……一体どんな夢を見ているやら。私(筆者)は残った芋を頂戴し乍ら、男が去った台所に残り、溶けては落ちる錆を見ていた。 

f0149320_1627131.jpg今錆が出て 君はきれいになった
去年より ずっと きれいになった──











(この物語はフィクションです。実在の人物・団体などには、いっさい関係ありません。)

【次回予告】
膜を取り戻した鉄瓶子に喝采を──鋳物として、女として、鉄瓶子は再び目覚めはじめた! 次回「いものみち」は更なる官能の極み、第四話「煮沸責め」の章へ。めくるめく二人の行為に、ますます健筆さえ渡る! 製作快調──臍で茶を沸かして待て!

【特報】 
第四話「煮沸責め」公開しました。(2009年 03月 01日)

(2009年 02月 26日)
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by tototitta02 | 2009-03-08 16:34 | ├本編(全7話) | HOME | TOP▲


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