いものみち 第弐話

"歯ブラシ責め"
注:本項は成人向けとなっております。ご注意、ご勘弁下さい。



飾りじゃないのよ鉄器は ha han……
井上陽水「飾りじゃないのよ涙は」より



01
f0149320_024228.jpg正体不明の男に導かれ、その屋敷に囲われることになった、赤錆びた南部鉄瓶「鉄瓶子(てつびんこ)」。孤独な住人の心隙を埋めるかのように、幾多在る部屋を埋めるのは数々の古道具、古民具──鉄瓶子の胸に、この大屋敷への道すがら、すれ違う者たちより向けられた言葉が思い起こされた。

「おや、道楽者の慰みものがまた一つ増えるぜ」

如何に男を信じ、この『いものみち』を歩む決意を固めた鉄瓶子ではあっても、まだその心は風にそよぐ南部風鈴の様、

(旦那様はお買い上げの際、私は“道具”なのだと仰った。道具、慰みもの……)

──だが、その奥座敷。鉄瓶子が待たされた座敷部屋には主人自作と思しき「上面タイル張り木棚」、更にその上には彼女の居場所……かの名店『釜定』の鍋敷が。それは、骨董品店での出会いが、単なる男の気紛れでは無い事を物語っていた。鉄器とて頬を抓(つね)りたき光景、するとそんな鉄瓶子に、屋敷の住人……他の南部鉄器たちが語りかけた。

「あんた、良い旦那に拾われたね。あたいたちも皆、元の主人に飽きられて……」
「売り飛ばされた郭で腐りかけてた所を、運良く旦那様に水揚げされた果報者ばかりさ」

f0149320_0242386.jpg f0149320_0243831.jpg彼女たちに、骨董屋で光を失っていた往事の、所謂「廃品」の面影は無かった。ただ眺められるだけの、気紛れな男たちの「享楽の道具」でもなかった。その輝きこそ、日々日常の暮らしの中で使われてこそ放つ「用の美」の神髄。羨ましい、自分もかく在りたいと鉄瓶子は願った。

そこへ、ガチ者の正装「全裸(※)」にて、決意露に屋敷の主人が現れた。男は、その手にした「道具類」を訝し気に眺める女を見下ろして告げた──

「水漏れチェックだ」

漏れたらどうしよう、恥ずかしい………男の凝視の下、久しく潤いなど忘れていた鋳物の深部に、容赦なく「水」は注ぎ込まれた。艶かしく身を震わし、声を圧し殺して耐える鉄瓶子。幸いその身体は、滴(したた)りを漏れこぼして畳を汚す様な粗相は犯さずに済んだが、漸く許しを得て、流し桶に空けられたその液体の「どす黒い錆色」……正に「身から出た錆」の穢れに、鉄瓶子は小さく羞恥した。だが、真の責め苦はこれからだった──
(※:作業は必ずしも全裸で行う必要はありません)




02
f0149320_0245148.jpg使い古しの「歯ブラシ」──男の手に握られたそれに、鉄瓶子はおののいた。更なる辱めの意味を問う間もなく、新聞紙を敷いた上に押し倒される鉄瓶子。ポルノか……否、飽くまで読者皆様の求めを慮り「正確な描写」を心懸けるが故に、結果留まらぬこれら官能世界、ご容赦願いたい。抵抗する鉄瓶子を他所に、男は蓋が外れ落ちて大きく開いた穴に「それ」を侵入させると、剥き出しとなった、まだ先程より濡れそぼるままの鉄瓶子の内側を激しく、激しく擦り始めた。改めて言う──18歳未満は読むな。

「痛いッ! ご堪忍下さい、旦那様!」
「黙れ。鉄瓶が声を出して良いのは、湯を沸かすときだけだ!」
「でもッ……嗚呼ッ、乱暴にしないで!」

日暮れの障子に響く鉄瓶子の、これが本当の金切り声。だが、鋳物の内側を覆った、幾重にも層為す「浮錆の赤襞(ひだ)に下される、男の「歯ブラシ責め」は止む事無く、遂には──

「そ、そこは違いますっ! “出口”です! “入り口”では御座りませんッ!──」

その小さく狭い「注ぎ口」にまで容赦なく侵入する、歯ブラシ(※1)。鉄瓶子の抵抗も無理は無かった。伝統的南部鉄瓶は製造時、釜焼きに拠る「金気止め」が施され、内部には隈無く防錆の「酸化皮膜」が生成されている。また、その外部も「黒漆(※2)「御歯黒液(※3)などによってコートされており、つまり、

!!!鉄瓶を磨砂・たわしなどで磨くことは禁忌!!!

なのだ。指を入れるなど以ての他、歯ブラシなんぞは鬼畜の所行である。
(※1:この際は『子供用歯ブラシ』を用いる事)
(※2:漆に鉄粉を混ぜたもの)
(※3:酢酸液に鋼片を1年以上沈めておいた酢酸鉄溶液)

「駄目ぇ、膜が傷ついちゃう! 錆が、錆が助長されちゃう!
──禁断の地を犯されし鋳物の叫び、だが男は冷徹に答えた。

「ジョルジオ・アルマーニ」
「は?」
「……もとい。処女でも有るまいに。己は既に水を知った躯、加えて斯くも長く苦界に身を沈めておったその身に、鉄瓶純潔の証……穢れ無き『酸化皮膜』など微塵も無いわ!」




03
確かに。一体いつ何処で誰に捧げたか、とうに鉄瓶子は「大切な膜」を喪失済みだった。お手つきの「使い古し」の負い目に、何も返せぬ鋳物へ男は続けた。

「そもそも、処女鉄器さえもそれなりの“馴らし”は必要。スピーカーは地中に埋める、蜜柑はキャッチボールしてから食べる──これぞ達人の倣い。更にお前の様な、一度身を窶して錆汚れた身ならば、尚更の事よ」

「でも……いきなり入れるなんて……非道いです………」

「言うな。『薬剤(洗剤)『白い粉(磨き粉、クレンザーなど)を用いた、所謂『クスリ漬け』に依て、その身を意の侭にせんと目論む連中こそ、その人格や効能を損ねる非道也。物の具合によれば、やむなく金属ブラシなどの“拷問具”を使わねばならぬ場合もある。水ブラシはせめてもの情けと覚えよ。」

大切な事なので、もう一度言おう──薬物使用は……ダメ、ゼッタイ!!!

……
外界より閉ざされし障子の間。抗う事も許されず、されるがままに歯ブラシを抜き差しされ、後ろから前からどうぞ──擦っては真水を注ぎ、錆と共に洗い出す作業が繰り返された。

(なんて念入りなの、執念にも似た……あッ、また注ぎ口を……穴が拡がっちゃうッ。剛毛、ジョリジョリこすれるぅッ! これも私が穢れているせいなのね……。それは重々判っているけど、今度は同時に二本も……辛すぎるッ……嗚呼、赤錆の雨に打たれて、このまま死んでしまいたい…………)

いつしか外は白い雪、部屋に舞うのは赤い錆。障子に響くは、憑かれた様な男の歯ブラシと、身削られる鋳物の喘ぎ声……するとそれら旋律に乗せ、幻の様に耳に届くは浜田省吾「悲しみは雪のように」──

♪君の肩に赤錆が 雪のように積もる夜には
 心の底から 誰かを 愛することが出来るはず
 孤独で 君のからっぽの その鉄瓶を 満たさないで……


あまり歌には意味が無い。漸く手を止めた男の足下、その洗い桶に浮くは、鋳物より吐き出された大量の赤錆。あられなき痛みの余韻に震え乍ら、鉄瓶子は恨めしそうに唇を噛んだ。

「満足ですか、私をこんな風に狂わせて満足ですか……旦那様………」




04
f0149320_025475.jpgカシャッ、カシャッ……身を照らすフラッシュの眩しさに、半ば気を失っていた鋳物子は漸く目を覚ました。今日一日の作業を記録する様に、行為を終えた男の手にはカメラが──

(写真も撮るのね……ああ、中身まで。その写真をアルバムに並べて、今夜独りで眺めるのね。さぞや良い気分でしょう。一体それからどうするの? ブログに貼って公開するの? とんだ晒し者……転がり堕ちていく鉄瓶の私………どこまでも)

犯した禁忌(タブー)の業深さに打ちひしがれながら、だが彼女は錆の下から現れた己の本性が、やがてそれを悦びと感じ始めていることに気付いていた。

「まだまだ終わらんよ」

そう言い残すと、男は部屋を後にした。第二第三の責め苦の準備──だが鉄瓶子は覚悟した。それすらも「愛ゆえの行為」と。私も傷つき、旦那様の手も汚れている。傷つけあってくらした、それが二人の愛の形だと信じた……それが愛することだと信じ、よろこびにふるえた……愛のくらし、同棲時代。ネタの古さが、鉄瓶子の鋳物としての古さを物語っていた。

「鉄瓶子さん、随分さっぱりしたね」──鋳物仲間たちの声が聞こえた。
「おや、あんたこうして見ると、結構良い造りじゃないの?」
「ツル(取っ手部分)は『袋作り(中空洞)』、つまみも『虫喰い(※4)だよ」
「あんな郭に身を沈める前は、結構良い所のお嬢さんだったんじゃないの?」
(※4:熱がこもらない様に虫が食った様な穴を空けた細工/下写真参照)

「覚えていないの……私」

f0149320_025256.jpg鉄瓶子は答えた。忘れていた私の本当の価値、旦那様は気付いていたのかしら……。更に己を鏡で見れば、錆を落とされた外側には、かつて刻まれた「銘」も浮き出ていた。それが彼女につけられた名前なのか、この世に送りし父親の名前なのか、判らない。でも、過去はもう振り返らない。後戻り出来ぬ『いものみち』の上、鉄瓶子は今新しい人生を歩み始めていた──








(この物語はフィクションです。実在の人物・団体などには、いっさい関係ありません。)

【次回予告】
俄に鉄瓶子に下された、無慈悲なる男の責め苦! ──されど剛直歯ブラシの獰猛は、ほんの序章に過ぎなかった! 次回「いものみち」は更なる禁断の地、第参話「緑茶責め」の章へ。狂い哭く女鋳物の哀しき様に、いよいよ止まらぬ筆者の右手と左手! 製作ますます快調──子供を寝かしつけて待て!

【特報】 
第参話「緑茶責め」公開しました。(2009年 02月 26日)

(2009年 02月 24日)
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by tototitta02 | 2009-03-09 00:33 | ├本編(全7話) | HOME | TOP▲


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